事業再構築ビジネスプラン
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新商品開発をきっかけにした非対面でのビジネスモデル構築

清水町

合同会社ミルフル

清水町,清水町商工会

合同会社ミルフル

■企業情報

 平成29年7月、「合同会社ミルフル」代表の山岸麻美さんがバレエや演奏会の衣装を手掛ける専門店を配偶者の経営するインテリア・介護用品店の2階にオープンした。

主力商品は、実際に着用したバレエ衣装や演奏会ドレスを10分の1のスケールで忠実に再現したバッグアクセサリー「キュキュチャーム®」で様々なマスコミにも取り上げられている。

 キュキュチャームは我が子が都市部で開催されるバレエコンクールに出場する際、出番を待つ間、どんな状況であっても平常心を失わず最高のパフォーマンスを発揮出来るようお守りとして作ったもので、保護者の口コミで徐々に広まり、好評を博している。

■合同会社ミルフル創業までの道程

4カ月で2級建築士を取得

 結婚を機に、夫が経営するインテリア・介護用品店に従事することになり、インテリアデザイナー資格取得に向けて勉強をしていたところ、父が脳梗塞で倒れてしまい階段の上り下りが困難な状態になった。

 当時、マンションの2階に住んでいたが、医師から安全に生活できるようバリアフリーの住宅に転居を勧められた。この状況下で、父と同居するため家を建てることとなった姉が衝撃的な一言を山岸さんに告げた。「あなたが家の設計をしなさい。」資格はもちろん建築の知識も全く持ち合わせていなかったが、二人姉妹だった山岸さんにとって姉は絶対の存在であり、父が生活しやすい空間を自らの手で提供したいという想いから覚悟を決めて引き受けることにした。

 父が倒れたのが1月、資格の取得を決めたのが3月、試験日は忘れもしない7月10日だった。本来であれば半年以上かけて準備をするところ、当時8カ月の子供を育てながら4カ月間、必死に勉強した。努力の結果、2級建築士に合格、設計第一号は父の家となった。

 施行者など多くの人に支えられながら行った家づくりは厳しいながらも楽しかった。完成した家は心身に負荷がかかることなく快適で住みやすく父と姉からとても感謝された。

家庭科は苦手だが図工は得意

 「小さなころから家庭科が苦手で、洋裁にもアレルギーを感じていた。そのかわり図工は得意、成績も良かった。」山岸さんは当時について語った。

 バレエ衣装やドレスを手掛けることになったのは、オリジナルデザインのキュキュチャーム®を見たお客さんから「是非、このデザインでバレエ衣装を作って欲しい。」と依頼されたのがきっかけだった。

 洋裁が苦手な山岸さんは、糸と針を使う工作だと置き換えて考えた。製図は建築図面に落とし込む感覚で行い、制作に関しても曲線を出すための切り込みは建築でいう木材を接合させる「ホゾ」、耐震性を高める「筋交い」と耐久処理を同じに考えることで不得意を克服することができた。

創業のきっかけは楽天市場

 「ネットショップを開設しませんか?」まだ、創業もしていない山岸さんのもとに突然、大手ネットショッピングサイトから連絡があった。ホームページすらない状態で、なぜセールスの電話があったのか考えてみると新聞記事にキュキュチャームが掲載されたことがきっかけだと分かった。

 とにかく行動派の山岸さんは話を聞くために都内にある本社に出向いた。そして、担当者の説明を受け納得、ショッピングサイト出店を即決した。

 しかし、初年度の売上は0円、出店には経費がかかり年間約20万円のマイナスとなった。その時の担当者の言葉が辛辣で今でも忘れられないと山岸さんは語る。「こんな商品紹介写真では売れるわけがない。ネットの世界は写真とキャッチが全て。」その後、ネットショップの運営とノウハウを学ぶスクールへの入学を進められるままに承諾、店舗運営に役立つ知識を学び、改善を重ねることで全国各地に顧客が増え、キュキュチャームが売れるようになってきた。

 だが、順調な日々も続かなかった。山岸さんのショッピングページが丸ごと乗っ取られ、詐欺ページに誘導されるようになった。振り込んだお客さんから商品が届かないと内容証明まで届き、困って警察に相談したがどうにもならないと言われ、泣く泣くショッピングサイトを閉鎖した。

 そんな困難を乗り越えて転んでもただでは起きない山岸さんは、これまで培った経験を踏まえ、顔の見える接客を目指し、実店舗を設けた形での創業を決意、あえていばらの道を進む覚悟を決めた。

 しかし、蓋を開けてみるとキュキュチャームはネットショップに出展したことが功を奏し、既に全国に認知されており、多くの固定客からの注文を受けることになった。

起業した2か月後にガンが発覚

 「キュキュチャームの人気がでてくると作り方を教えてほしいという人も増えてきたが、最初はすべて断っていた。自分が苦労して考えたものをなんで教えなければならないと思っていた。」山岸さんは当時について語る。

 ところが起業した2か月後、声が出なくなり診察を受けると即入院、甲状腺ガンが発見されリンパにも転移していた。

 まず初めに、頭をよぎったのが借入のことだった。そして、死んでしまったらキュキュチャームを製作・修繕できる人がいない、苦労して生み出したキュキュチャームがこの世から無くなってしまう。この時、考え方を改め引き継いでくれる人に自分の技術を伝えるため、弟子を取ることになった。

困難を乗り越えて

 数々の困難と病気を乗り越えた山岸さん。現在、道内だけではなく関東・関西・九州にも教え子ができ、総勢15名となった。以前はすべて自分で行っていたキュキュチャームの製作も分担してできるようになった。

 教え子について山岸さんは言う。「奇特な人が多い。のれん分けして巣立ってほしいと伝えても誰一人として自分の商品として販売したいという人はいなく、サポートでよいと言っている。」支援を受けるだけではよくないと考え、キュキュチャーム®アート協会(https://mille-heureux.com/association/)を立ち上げた。

 協会では、教え子たちが登録講師となり、製作の指導を行うとともに、被災地や紛争地域に届ける活動を行っている。現在、活動に賛同してもらえる賛助会員を募集しており、創って終わりではなく何度でも繰り返し修繕できる持続可能なお守りキュキュチャームの普及を目指している。

■現在の事業状況と新型コロナウイルスにより受けた影響

 新型コロナウイルス感染症拡大により舞台やバレエコンクールの延期・中止が相次ぎ、依頼されていた衣装やドレスの製作もすべてキャンセルとなった。コロナの長期化で先が見通せず、毎月固定費だけが発生する状況で心が折れそうになっていたとき、今よりも大変だった創業までの道のりを振り返り一念発起、バレエ衣装を作成するために使用していた材料でマスクの開発に着手した。

 衣装の材料となる生地は頑丈で通気性がよく、デザインにもこだわっていたため、マスクの評判は口コミで広まり、これまでターゲット層にはならなかった町内一般客への販売も増え、在庫している生地を活用したことで仕入原価の低減につながった。

■補助事業の活用状況

 新型コロナを契機にオンライン会議ツールが広く世の中で活用されるようになったが、ミルフルでは創業時から既にキュキュチャームの製作講習にWeb会議サービス「ZOOM」を取り入れてきた。

 コロナ禍においても、オンライン講習のほか、インターネット販売など接触機会をさける方法を模索しながら事業を継続してきたが、オーダー衣装製作にはオンライン面談では補えない部分があることが課題であった。

 そこで、持続化補助金(低感染リスク型)を活用してオンライン寸法時にリアル対面と同様、細部まで目視でやり取りできるトルソー、手書きしていた衣装型紙のデジタル化を図るため洋裁CADを導入した。

 ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応した新たな取組として導入したオンライン採寸により、これまで道内のお客様が中心だった衣装オーダーが道外からも受注されるようになり、2022年・2023年と徐々に売り上げを伸ばしてきた。接触機会の減少を目的としたビジネスモデルは、新型コロナの5類移行後も継続して取り組まれており、オンラインの活用で移動時間が削減できたことで積極的に営業活動を行い新規顧客獲得や販路拡大に繋げている。

■経営指導員による伴走支援の手法

 「どうしたらできるのかを一緒に考え、本人が納得するまでとことん付き合う。」それが伊藤経営指導員の支援スタイルだ。

 小規模事業者持続化補助金(低感染リスク型)の申請についても山岸さんのやりたいことは理解できるが、整理して計画書に落とし込むことができておらず、十数回、伊藤指導員の添削指導が繰り返された。

 なかでも収支計画は、こだわって商品を作りたい職人気質の山岸さんが利益を後回しにしていることに対して「商人は売って儲けないといけない。正当な利益を求めていかなければならない。」珍しく厳しい言葉が伊藤指導員より発せられた。それから経営者として正しい営業活動を行うよう意識するようになった。

 山岸さんは言う。「当たり前のことだがこの言葉に感謝している。伊藤指導員は距離感がよく情熱的で真面目、正直になんでも話せる。」

 何かあった時の支えとなる伊藤指導員への信頼は厚い。

■専門家との連携支援

 山岸さんにはもう一人、信頼のおける支援者がいる。

 道商工連の「専門家派遣等事業」で出会った中小企業診断士の先生だ。清水町商工会では事業計画策定や補助事業活用に向けた個別相談会を定期的に開催していて、たまたま参加した山岸さんは先生の言葉に魅了された。 

 「心に刺さる言葉、きつくもなく優しくもなく、淡泊だが今の自分に必要な言葉をくれる。腑に落ちるのです。」そう山岸さんは語った。

 「山岸さんは大器晩成型。あせらずじっくりいきましょう。」過去に持続化補助金申請準備にあたり事業計画作成が間に合わず焦る山岸さんに対してかけられた言葉、「ダメになるときはどう頑張ってもダメ、前に進むしかないのです。」コロナ禍で途方にくれていた時にかけてもらった言葉、このひとこと一言に山岸さんは救われてきたと言う。

 その後も事業の転換期には定期的に相談を続けており、伊藤指導員と同様、困ったときに相談できる大切な存在となっている。

 山岸さんへの支援も含め清水町商工会の取り組みは、経営指導員と専門家が連携した理想的な伴走支援だと言えるだろう。

■今後の展望について

 現在、国内外含め大規模イベント出展によりB to CだけではなくB to Bという新たな需要開拓を目指している。また、ここまでついてきてくれた支援者のためにもキュキュチャーム®アート協会(https://mille-heureux.com/association/)の活動にも力を入れていきたいと考えている。

ミルフルとは仏語直訳で「千の幸せ」を意味する。幾千もの笑顔と幸せを作品で届け続けたい。

「作る喜び、贈る喜び、贈られる喜び、喜びはきっと楽しいに変わる。」をモットーに山岸さんの挑戦は続く。